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「税理士による相続人にやさしい相続税のページ」は、税理士 永野智一氏と提携して運営しております。 本ページの記載内容に関するご質問や相続税のご相談は、下記にて直接お問い合わせください。(相談料は無料です)
相続手続きの基本的な流れ
(1) 被相続人の死亡(相続の開始)
民法882条は、相続開始の原因として、『相続は、死亡によって開始する』と規定しています。
(2) 死亡届の提出と火葬許可証の受領、年金受給停止・遺族年金手続きなど
死亡届は、通常は同居の親族などが死亡の事実を知ってから7日以内に、死亡診断書や火葬許可申請書を添えて、死亡者の住所地の市区町村役所戸籍課に提出します。これにより、埋火葬許可証が発行されます。この届出書は、日曜祝日・夜間も受付しており、一般的には葬儀社の方が代行してくれるケースが多いようです。特に葬儀前後の手続きについては、すべて葬儀社の方にお願いするのがよいと思います。葬儀社については、料金などで揉める可能性もありますので、些か不謹慎かもしれませんが臨終が間近いと判断されるご家族の方は、前もって評判の良い葬儀社を見つけておくことが後々の安心につながります。
また、忘れがちですが年金受給停止の手続きは、厚生年金等が10日以内、国民年金は14日以内に年金事務所に対して行う必要があります。
なお、現役を引退されて老齢年金等を受給していた人が亡くなられた場合には、その遺族に遺族年金の受給資格が生まれますので、年金受給停止手続きを年金事務所で行うときに確認してください。
(3) 遺言書の有無と相続人の確認、家庭裁判所の検認手続
被相続人の死亡の後、忘れてはならないことが遺言書の有無の確認です。
遺言書が発見された場合は、まず、遺言書が公正証書遺言か自筆証書遺言かを確認し、公正証書遺言の場合には、直ちに有効であることが確認できますが、自筆証書遺言の場合には、未開封の状態で家庭裁判所に提出して検認を受ける必要があります。
家庭裁判所の検認手続きは、本遺言書が被相続人の遺言書であるか否かなどを判定する保全の手続きですが、その遺言書が有効か否かを決定するものではありません。自筆証書による遺言書は、その記載内容によっては、無効になることもありますので、自筆証書遺言書を作成する場合でも専門家に相談されることをお勧めします。
また、後日、財産を分割した後で遺言書が発見された場合には、その変更手続きがたいへん面倒になりますので、洩れのないように自宅や銀行の貸金庫などを確認してください。
なお、公正証書遺言を作成された場合には、相続人にその旨を知らせておけば、相続人は遺言書の控えが発見されない場合でも、最寄りの公証役場で検索してくれる仕組みができあがっておりますのでたいへん便利です。
(4) 相続財産と債務の概略調査
遺産総額がプラスである場合には問題ありませんが、債務の金額が多いと判断される場合には、遺産を単純相続するか相続放棄するか、または限定承認するかを相続開始後3ヶ月以内に決める必要があるため、財産の概略調査を速やかに行う必要があります。
特に、債務の金額が多いと思われるケースでは、被相続人の遺言書において、このことを記載しておかれると相続人が財産承継の手続きを的確に進めることができます。
ここで、特に注意しなければならないことは、被相続人が第三者の債務保証を行っていた場合です。その第三者が弁済不能の状態で財産が全くない場合には、その債権者は相続開始後3ヶ月を経過した時点で、保証債務を承継した相続人に対し、その弁済を請求できることになっています。この弁済請求は相続を放棄しない限り回避することができませんので被相続人の債務保証の存在は大きな禍根を残すことになります。なお、この保証債務が相続税法上の債務控除の対象となるか否かについては、かなり、微妙なところがありますので保証債務が存在する場合には必ず早め(遅くとも相続開始後2ヶ月以内、できれば四十九日明け直後)に専門家に相談してください。保証債務は、その額が大きい場合には取り返しのつかないことになります。
(5) 遺産を相続するか否かの確認(相続放棄または限定承認の手続き‥3ヶ月以内)
相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に相続の放棄か限定承認の手続きをしなければ、単純相続したものとみなされます。通常は、借入金などの債務が多く、遺産総額がマイナスになる場合に、相続の放棄または限定承認の手続きを行います。
相続放棄は、「相続放棄申述書」に戸籍謄本を添付して家庭裁判所に提出します。
限定承認は、相続財産の範囲内でのみ債務の承継を行うことになり、相続人全員により「家事審判申立書」に「相続の限定承認の旨」を記載し、戸籍謄本や財産目録を添えて家庭裁判所に提出します。なお、「相続放棄」は相続人単独で行うことができますが、「限定承認」は相続人全員で行う必要があります。債務超過の恐れがある場合には、特に手続きを忘れないようにしてください。被相続人が連帯保証人である場合など、相続後3ヶ月以内に判明しない債務があると考えられる場合などには、特に限定承認は有効な手立てになります。
ただし、「限定承認」を選択する場合には、手続きが煩雑になりますので、必ず専門家に相談されるようお勧めいたします。
なお、限定承認はその手続きが煩雑であることや相続開始後から3ヶ月の間に財産と債務の額を調査して判断する必要があり、前述のとおり相続人全員で申立てしなけてばなりません。さらに、相続財産のうちに土地等の譲渡所得の対象になる資産がある場合には、被相続人の譲渡所得の申告が必要になります。限定承認は使い勝手が一見よさそうですが、中身が複雑であるため、我が国の申述受理件数は、年間1000件未満の状況です。これに対し、相続放棄の件数は、近年では最高裁司法統計資料によれば平成25年度で実に17万件超となっています。従って、債務超過が確実な方は相続放棄を選択されているようです。
ここで、注意喚起しておきたいことがあります。それは、相続放棄する場合でも必ず専門家に相談していただきたいということです。例えば、相続財産がプラスで相続人が複数存在していて、相続人の一人が相続放棄するとその放棄者は最初から相続人とならなかったとみなす民法939条の規定があります。ここで、子供が被相続人の配偶者に全ての財産を相続させるつもりで相続放棄すると、その財産は被相続人の父母、父母がいない場合には兄弟姉妹にまで相続人の範囲が広がることになります。このようなことには、なかなか気付きにくいので要注意です。
(6) 相続財産の評価(相続財産・債務の詳細調査、生命保険金の把握など)
遺産総額は次の項目の加減算によって計算します。
①(+)本来の財産 (土地や建物、現預金、有価証券など)
②(+)みなし財産 (生命保険金や退職金など)
③(-)非課税財産 (墓所や霊廟、祭具など)
④(+)相続時精算課税制度に係る贈与財産
⑤(-)債務・葬式費用 (銀行などの借入金や葬儀費用など)
⑥(+)相続開始前3年間の生前贈与財産
合 計(=遺産総額)
(7) 遺産分割協議書の作成と遺産の未分割
各相続人が取得する財産を明確にするため、遺産分割協議書を作成します。この協議書の様式は自由ですが、各相続人が自署し、実印で押印することが必要です。また、財産を取得しなかった相続人がいる場合でも、自署・押印することになっています。
実務的には、遺言書により財産分割が明確でない場合には、遺産分割協議に多くの時間を費やすことになります。くれぐれも“争続”が起きないように確実な遺言書を作成しておいてください。また、本遺産分割協議書によって現預金・有価証券・不動産等の名義変更手続きが行われることになります。
また、相続税の申告期限までに未分割の遺産がある場合には、配偶者に対する相続税額の軽減や小規模宅地等の評価減の規定が受けられず、一時的に多額の納税が発生することになりますので、ご注意ください。これは生前に被相続人がしっかりした遺言書を残すことによって防ぐことができます。未分割が発生する原因の多くは、遺言書がなかったことによるケースがほとんどです。
(8) 所得税の準確定申告(被相続人の所得税の確定申告及び納付・・4ヶ月以内)
被相続人の死亡の年の1月1日から死亡の日までの間に所得があり、確定申告の義務がある場合には、相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内に、相続人が連名して準確定申告を行う必要があります。この準確定申告は、被相続人に不動産所得がある場合や事業を行っていた場合には、かなり手間のかかる手続きになりますので、税理士が申告に関与している場合は別として、被相続人が自分で申告業務を行っている場合には、相続人の方に事業の概要なりを説明しておかれると、申告の手続きがスムーズになります。
なお、被相続人の公的年金等による収入金額が400万円以下で、他の所得も20万円以下の場合には、準確定申告の必要はありません。
(9) 納付方法の確認と資金手当て
各相続人が取得する財産を明確にするため遺産分割協議書を作成しますが、この協議書は、相続税が発生する場合には、現金納付か物納かなどの納税方法と資金手当てを考慮して作成する必要があります。特に相続財産が多額の方は、遺言書の作成はもちろんのこと、各相続人の納付する相続税額を考慮したうえで、取得する財産を明確にしてあげることが肝要です。
(10) 相続税の申告と納付(10ヶ月以内)
通常は、四十九日法要の終了後に遺産分割の話し合いを行うケースが一般的です。この時点で相続財産が多額になると見込まれる相続人は、税理士等の専門家に相談されるケースがでてきます。この時期は、相続開始後約2ヶ月近くを過ぎていますので、残り1ヶ月間で相続財産を調査し、遺産総額がプラスかマイナスか概要を把握し、万が一マイナスの場合には、限定承認か相続放棄かを選択しなければなりません。
特に、銀行などからの借入金が多くあり、債務超過の恐れがある場合に、そのまま放置しておくと、後々禍根を残すことになります。単純承認をした場合には、プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続人が引き受けることになるためです。
また、その1ヶ月後には、通常の確定申告より手間のかかる準確定申告の手続きがあります。被相続人が事業を行っていて不動産所得や譲渡所得などがある場合には、所得内容の確認に時間がかかり、期限に追われることになります。相続開始後の4ヶ月や10ヶ月という期限は、思いのほか時間が少ないということを知っておいてください。